思い立ったが吉日


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抱きしめながらキスをしよう


 凌(しのぐ)は、きしむベッドの音に、面食らっていた。目の前には、頬を赤く染めた凪紗(なぎさ)が膝立ちしている。視線は完全に座っており、その瞳は凌をにらみつけていた。

「なんれ逃げるの?」

 ろれつの回らない凪紗に対して、凌は冷静になるようにと水の入ったペットボトルをすすめるが、失敗に終った。凪紗はさらに膝をすすめ、凌にせまる。

「凌はあたひのころ、どう思ってるのよぉ」

 凪紗のそれは、完全に酔っ払いのものである。しかし、先ほど一緒に夕食をともにした時は、凪紗は当たり前だが、お酒など飲んでいない。凌が部屋に戻り、凪紗がこの部屋に訪れる間に口にしたものが原因のようだ。

「未成年が酒を飲んで男の部屋に夜這いするとは、親の顔が見てみたい」

 なにが面白いのか、凪紗はずっと笑っている。

「うちの親なら、凌も知ってるじゃん」

 凪紗に対しての嫌味だったのだが、シラフの時でも通じないのに、酔っている今、ますます通じるわけがない。まともに相手をしようとするだけ無駄なことを知り、凌は無視することにした。

「相手してよぅ」

 凪紗は凌に抱きついてきた。

「凪紗?」
「あはっ、凌がいつもより近い」

 ギュッとシャツの裾を握り、とろんとした瞳をしているが、何故か戸惑っている。

「凌、キス、してもイイ?」

 下から見上げるような凪紗とその言葉に、凌の心臓は遅れて動悸を早める。

「できるものなら、してみろよ」

 思わず、挑発じみた言い方になってしまう。

「目を閉じてよ」

 じっと見つめられていることに今更ながら恥ずかしくなったらしい凪紗は凌にお願いするが、凌は首を振り、拒否を示した。

「凌の意地悪ぅ」

 凪紗は素早く凌の目を覆い、唇の端にかすめるように唇で触れただけだった。凪紗の吐息はほんの少しだけケーキの甘い匂いとブランデーが香り、お土産にもらったケーキを食べたことを知った。

「凪紗……あのブランデーケーキで酔っ払ったのか?」
「酔っ払ってないよぉ」

 凪紗は凌に身体を預けてきた。

「おい、凪紗?」

 うろたえるのは凌。心の準備ができていないのに、積極的な! と焦って凪紗の肩をつかみ、その顔を見て、安堵と落胆の気持ちが混じった感情が渦巻く。凪紗は赤い顔をしつつ、満足したような笑みを浮かべて眠っているのだ。

(この奔放さに振り回され続けるのか、俺)

 凌は一度、唇の触れた場所をゆっくりとなぞり、幸せそうな寝顔をしている凪紗を見つめた。

【おわり】


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