《四話》圭季さんはあたしの彼氏!?01

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 あたしは日直だったので校内に走りこみ、職員室へぜーはーと肩で息をしながら滑り込んだ。

「お、おはようご、ございま……す」

 朝の職員室は戦場だ。準備で忙しく動き回る先生たちをぬって担任の机に向かう。

「菊池先生、おはようございます」

 菊池先生はにっこり微笑んで日誌を手渡してくれた。

「立花先生とはうまくいきそうですか?」

 先ほど遭遇した出来事を話そうと口を開きかけた時、後ろからだれかが来る気配がした。

「おはようございます、菊池先生」

 振り向かなくてもだれか分かった。
 でたっ! 元凶の立花センセっ!!

「ご心配なく、大丈夫ですよ」

 なんであたしの代わりに答えているのよっ! 断るタイミングを逃してしまったじゃない。
 立花センセはあたしの背後にいるからどんな表情をしているのかまったく見えないけど、なぜか菊池先生は頬を赤らめている。……菊池先生も病院に行った方がよいかもしれませんよ? 菊池先生の態度にげんなりしながら教室へと向かった。
 そして、教室について自分の席にたどり着く前にあたしは床に崩れ落ちた。

「那津……なんであなたがあたしの席にいるの?」

 先ほど校門前で見た那津が当たり前のようにあたしの席に座っていた。

「千代子さま、おはようございます」

 にっこり笑って椅子から立ち上がり、座るように促す。周りはあたしと那津のやり取りに痛いほどの視線を送ってくる。うぅ、注目を浴びるのは不本意すぎる!

「那津! あなたは一年生で教室はここではないでしょっ!?」

 あたしの言葉を聞いているのかいないのか知らないけど、那津は鉄黒色の瞳に笑みを乗せ、微笑む。

「わたくしは千代子さまの執事。常にご一緒するのがつとめ。先生の許可なら取ってありますのでご心配なく」

 那津は優雅にお辞儀をして、無理やり椅子に座らせ、隣の席に座る。
 そういう問題じゃないわっ!
 それよりも先生! そんなわがまま許されていいのですかっ!?
 しかも! 今座った隣の席、昨日まで別の人が座っていたわよね!? どうなってるの?
 あたしは言いたいことがたくさんあって、だけどうまく言葉にできなくて空気を求めて水面に上がってきている魚のように口をぱくぱくとさせることしかできなかった。
 ようやく落ち着いて那津に文句を言おうとしたら。……無情にも始業のベルが鳴り始めてしまった。クラスメイトたちはあたしと那津の動向を気にしつつも席について前を向く。
 しばらくして、苦手な数学教師が教室に入ってきて、授業が始まった。

 昨日、しっかり寝たはずなのに、授業を聞いていると睡眠の効果のある呪文でも聞いているのではないか、というくらい眠気が……。黒板に書かれた文字を追いながら、ノートを取っているにも関わらず、舟を漕ぎ始めてしまった。
 ぷにっ、と頬に固い感触を感じてびっくりして目を覚ました。

「千代子さま、起きてください」

 うぅ、なによ……。じろり、と頬をつつかれている側に視線をやり、にらむ。

「教科書の四ページの練習問題を解いてください」

 はっとして周りを見ると、みんななにやら必死になって解いているようだ。びっくりして教科書を開きなおし、四ページを見る。
 ……うん、わかんない。あわてて黒板に書かれた文字をノートに書き写し、四ページを見る。とりあえず見よう見まねで解いてよし、と思って正面を向くと那津が一言。

「千代子さま、間違ってます」

 ……うっさい! 一年生の分際でこれが正解かどうかどうしてわかるんだっ!?

「これはここをこうしてですね……」

 那津はあたしのノートに容赦なくなにか書きこんでいく。那津の書いている文字をぼんやり見ていたけど、ものすごく分かりやすくて驚いた。

「じゃあ、こっちのこの問題は……」

 ノートにもう一問の数式を写し取り、計算していく。

「そうです」

 那津はあたしが導き出した回答を見て、にっこりと笑った。屈託のないその笑顔に心はきゅん、とときめいてしまった。
 ……どうしてそこでときめくっ!? そのときめきを悟られないようにしかめっ面をして前を向いた。
 那津はあたしの横の席に戻り、なにかを広げてノートに書き込みを始めてしまった。
 ど、どうして那津の笑顔にときめかないといけないのよっ!? この人のことだから、またなにかたくらんでいるに違いない。自分にそう言い聞かせてもう一度、問題を見直した。




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