《五話》おねだり!? 執事?01

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『クッキー』

 クッキーとは、小麦粉に砂糖、バターなどを入れて焼いた洋菓子。
 名前の由来はケーキや焼き菓子を意味するオランダ語「koek(クーク)」に由来する。

 今回はいろんなところから説明を取ってきたのでソースは省略。
 どうでもいいけど、Wikipediaのクッキーの説明、ひどかったわ……。

 クッキーもいろんな種類があるわよね。
 絞り出しから型抜き、ドロップクッキーまで。
 あたしはどれでも好きだなぁ。

 あ、あたしの好みなんて聞いてない?




 圭季さんと一緒に肉じゃがを作って、驚いた。包丁さばきがプロ級!?
 あたしはジャガイモの皮をむくのは皮むき器でやっているのに、圭季さんは包丁一本を片手にするするとまるで手品でも見ているかのごとく、見事なまでに皮をむいていく。

「すごい……」

 と見惚れていたら、

「チョコ、手が休んでる。ジャガイモはいいから人参むいて」

 とあたしの手の中からジャガイモをひょいと取り、むきはじめた。……これだとあたし、ものすごい足手まとい!? 流しに置かれていた人参を取り、皮をむく。

「皮むき器でむいてるのに見ていてなんか危なっかしいなぁ」

 と言われましても。うわっ、あぶなっ。
 ……これが危なっかしいのか。かなり足手まとい風味になりつつ、あたしと圭季さんは肉じゃがを作った。
 え、お出汁要らないの? 肉じゃがって出汁で煮るものだと思っていたから、かなり驚いた。あとはお味噌汁とつけ合わせ。
 圭季さんの手際の良さと料理のセンスというの? に脱帽。教わるというよりも圭季さんの魔法のような料理さばき? を見ている方が面白くて、後ろからのぞき見。結局、手伝ってないし。

「おれに惚れた?」

 後ろでじっと見ているあたしに圭季さんは右側の口角をにやりと上げ、あたしを見る。その自信たっぷりで魅惑的な笑顔に、胸はきゅん、とする。
 あ……素敵。
 だけど圭季さんに惚れた、だなんていうのが恥ずかしくて、

「ち、違います!」

 と思わず強がりを言っていた。だけどこの料理をする姿を見て、惚れない女の人がいるのなら見てみたいっ! でも、圭季さんに惚れられたら、困るかも。と考えて、それが信じられなくてそのまま止まってしまった。
 あたし……。昨日会ったばかりなのに、圭季さんのこと──。
 自分の中に思わぬ感情を認めて、動揺する。
 え、いや、う。
 恥ずかしくて頭に血が上ってきた。
 すると急に視界が遮られた。

「!?」

 な、なにっ!?

「だーれだ」

 後ろから目隠しをされ、耳に息を吹きかけられるような囁きでそうつぶやくのは、

「那津っ!」

 驚いて目隠しをしている手を引きはがし、那津から身体を引き離す。あまりの出来事に驚き、肩で息をしていた。

「しっ、心臓に悪いこと、しないでよっ!」
「チョコちゃんの心臓には毛が生えてるだろう?」

 ひ、人を人外みたいな言い方するなっ!

「そもそも心臓に毛が生えていたら心臓としての機能が悪くなるでしょうっ!? 心臓の中で毛が絡んだり毛に赤血球が張り付いて血栓の元になったりっ!」

 あたしの反論に那津ばかりか圭季さんまでお腹を抱えて笑っている。
 な、なによ。そんなに変なこと、言った!?

「心臓の中に毛が生えている、というのは考えたことがなかったな」

 圭季さんは涙目であたしを見ている。言われて初めて気がつく。
 そうか。心臓の外側に生えていれば問題ないのか……って違うっ!

「中でも外でも心臓には毛は生えませんっ!」

 自分の勘違いが恥ずかしくて、真っ赤になりながらそう言ったけど、ますます墓穴を掘っているような気がした。
 んもうっ!

「那津もいたずら、しないでよっ!」

 ふと見ると、圭季さんの料理はもうすっかりできていたらしく、食器を取り出して料理をよそっている。さすがにこれはぼんやりと見ているわけにはいかなくて、手伝おうとしたら、那津に邪魔される。

「千代子さまは座ってお待ちください」

 あたしの手からお茶碗を奪い、強引に手を握ってテーブルまで連れてこられた。

「那津っ!」

 抗議したけど、肩を掴まれて無理やり座らされた。立って手伝おうとすると、那津は鉄黒色の瞳であたしを睨みつけるものだから、おとなしく座って待つしかなかった。
 執事がどうしてそんなに睨むのよ。そもそも那津が執事、というのは……。うん、よく考えてみたらおかしいじゃない。
 高校生の分際で執事ですって?
 そもそも執事、とはなによ?夕食のあとに最近の御用達である『Wikipedia』で執事について調べてみた。
 そうそう、夕飯の肉じゃがだけど、もうね、ものすんごく美味しかったの! ジャガイモもほくほくで味付けもちょうどよくて。今度詳しいレシピを教えてもらおう。
 話を戻して執事のこと。最近言われている『執事』というのは『バトラー』に近いのね。バトラーの項目に書かれていた「主人との関係で許されていたこと」を見て、思わず悲鳴を上げていた。
 ノックしなくて入室していいってっ!?
 か、仮にも乙女の部屋よっ! 別にやましいことをしているわけではないけど、心臓に悪いからノックしてから入ってよっ!
 許されなかったことは結婚と借金か。
 昔は身分が違うと結婚できなかったとかあったのよね? じゃあ、主人と執事が恋に落ちる、なんてことは……どうだったんだろう?
 そもそも『執事』は男性主人に仕えるのが基本なのか。女性には女中頭がつくのか。ほうほう、勉強になるわ。
 ……するとだ。ますます那津があたしの執事、というのが訳がわかんない。
 そうか。あたしの執事、と思うからおかしいのよ。圭季さんの執事、と思うと……高校生で執事、というのはなんだか納得いかないけど、それなら自然だわ。
 なんとなく自分の中で納得できたから安心してお風呂に向かおうとした。
 その問題の那津が当たり前のようにノックしないで部屋に入ってきた。

「千代子さま、お風呂の時間でございます」

 手にはあたしのお気に入りのバスタオルを持って、那津はあたしに向かって深々とお辞儀をしている。

「ノックくらいしなさいよっ!」
「執事はノックをしなくても入室してよいとなっているのです」
「そんな屁理屈、どうでもいいわっ! あたしの部屋に入る時はノックしなさいよっ!」

 思わず鼻息も荒く那津に言い募った。那津は年下とは思えない妙に貫禄のある表情であたしを見て、

「ご命令とあらば」

 め、命令!? あたしはその単語に動揺する。

「め、命令じゃないわよ! お願いよ」

 命令なんてありえないわよ。あたしはお嬢さまでもなんでもないんだから。

「お願い、でございますか……」

 那津はそう言い、少し困ったように眉尻を下げる。その表情が先ほどの貫禄のあった表情と百八十度違って、年齢より下に見えて……なぜかあたしの心臓はどっきん、と一度、はねた。
 や、やばい。那津の性格を知っているけど、その表情は萌える。なんだか頭をなでなでしたい衝動にかられる。
 ああそうか。捨てられた子犬みたいなこの表情に弱いんだわ。普段の強気な態度がなりを潜め、かまってビームが目から出ていて……。
 だけどきっと、これも那津の計算ずくの表情なんだわ。
 あたしが

『いいわよ』

 と言うまできっとこの表情で見ているのよ。

「い、一応、あたしも年頃の娘だし。ノックして入ってね」

 自分で年頃の娘、と言っている時点でどうなのよ、と思うけど、いきなり入室されるのはやっぱり困る! それでもあまり強く言うことができなくて、念を押すようにお願いという形でしか言えなかった。だけど主張したことは褒めてほしいわ。

「どうしてもそこは譲れない、とおっしゃるのですね」

 本当に困ったな、という表情でいるものだから負けそうになったけど、ここで負けたら困るのはあたし。あたしは力強くうなずく。

「わかりました。千代子さまのお部屋“だけ”でよろしいのですね?」

 なんとなく嫌な予感がしたけど、再度うなずく。
 あたしのうなずきを確認して、那津はにたり、そう、まさしくにたり、という擬音語が正しい悪魔のような笑みを浮かべ、

「では、お風呂に参りましょう」

 と嬉々としてあたしの腕を引っ張る。激しく嫌な予感がっ!
 脱衣所に連れてこられ、那津はあたしの洋服に手をかける。

「ええい、なにするのっ!」
「服を脱ぐお手伝いを」

 那津の手を振り払い、前をかき抱く。

「自分で脱げますっ! 今からお風呂に入るんだから、出ていけっ!」

 言っても出て行かない那津に切れて背中を押して脱衣所から出す。那津はつまらなそうな顔をして見ていたけど、ばたん、とわざと音を立てて扉を閉めた。
 わが家の間取りはあたしの部屋の前にトイレとお風呂がある。トイレとお風呂の間は脱衣所になっていて、その先が洗面所。洗面所の横は洗濯機置き場があり、そこからキッチンに抜けることができるようになっている。キッチンから脱衣所に侵入されても困るので、洗面所と洗濯機置き場の間の引き戸を閉める。ここにはかぎがついてないから、これはもう那津の『大人な対応』に任せるしかない。そして脱衣所と廊下に続く間にある扉に子どもだましのようなかぎがついているんだけど念のためにかけておく。
 あれだけ顔がいいのだから、女の子なんていくらでも選り取り見取りのはずなのに、なにを考えているんだか。
 頭と身体を洗ってから湯船につかっていると、外にだれかがいる気配がする。
 那津だな。そう思うとなかなか湯船から出ることができなかったけど、さすがに限界になり、少しのぼせながら湯船から出る。そっとお風呂場の外をのぞくと、だれもいないようだったので脱衣所に出て、バスタオルを探す。
 ……ない。
 ストックされているタオルを見るとスポーツタオルがあったのでそれで髪の毛と身体を拭く。
 普段はバスタオルを身体に巻いて目の前のあたしの部屋に戻ってから着替えていたんだけど、これからは別の方法を考えないといけないようだわ。少し大きめのタオルを探して身体に巻いて脱衣所を出た。

「!」

 脱衣所を出ると、廊下で那津が待ち伏せしていた。

「千代子さま、お着替えをおて」

 那津がすべてを言う前に鼓膜が破れそうなくらいの悲鳴をあげてやった。

「きゃぁああああっ!!!」

 悲鳴を聞きつけた圭季さんが血相を変えて走ってきたことで余計に事態が悪化したような気がしたけど、さすがに那津はやりすぎだと思う。
 圭季さんにも結局、年頃の娘としては一番恥ずかしいタオル一枚の恰好を見られてしまったわけだけど……。
 パジャマを着て、ダイニングにあたしと那津と圭季さんの三人が集まり、圭季さんは那津に今日のことを説教していた。

「那津、少しやりすぎだろ」

 圭季さんにそう言われているけど那津はまったく反省しているように見えなかった。ほんと、那津にも困ったものだわ。
 お風呂上りにクッキーを食べようと思っていたのをすっかり忘れ、げんなりして部屋に戻った。
 とにかく那津が絡むと疲れる。宿題しなきゃ、と思いつつももうぐったりしてしまい……あたしは結局机に向かうことなくベッドに沈み込んだ。




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