《八話》一触即発!? 一騎討ち01

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 薫子さんのことを聞きたいけど、圭季さんの機嫌がなんだかものすごく悪くて聞くに聞けなかった。那津に聞いたら分かるかな、と思ったけど、こういう時に限って那津はどこかへ外出してしまったらしい。もー、肝心な時にいない那津って本当にあたしの執事なのっ!?
 重苦しい気持ちのまま、予定通りにシュークリームを作る。

「うわっ」

 いつもならやらないようなミスを連発。ぼんやりしながら作っているからいけないのか。お菓子を作る時間が一番の安らぎのはずだったんだけどなぁ。
 シューがうまく膨らまなくて、今のあたしの気持ちを表しているようで余計にしょんぼりした。こんな日は作らないのが一番だわ。材料がもったいない。
 がっかりとしてあたしは片づけて部屋に戻る。気持ちが晴れなくてため息しか出ない。
 こんな時は笑えば少しは気がまぎれるかな、と思って本棚から笑えそうな漫画を何冊か取り出して読み始めたけど、全然気持ちがついていかない。 なんであたし、こんなに落ち込んでいるんだろう?
 枕元に漫画を放り出し、大の字に寝転がる。
 圭季さんは元カノ? の薫子さんにあたしのことをきっちり『フィアンセ』と言いきってくれた。それはとてもうれしかった。
 だけど。なんで視線を合わせてくれないんだろう。顔も見せてくれない。
 考えたって答えはでないのは分かっていたけど、機嫌の悪い圭季さんに聞く勇気がまったくない。どうすればいいのか分からなくて、布団にもぐる。
 あたしは圭季さんのこと、どう思ってるんだろう? 圭季さんはあたしのこと、本当はどう思ってるんだろう? 圭季さんの本心を知りたかったけど、その本心を知るのが怖い。
 あたしは……圭季さんのこと、好き──?
 そんなことを考えていたら、いつの間にか寝てしまったらしい。気がついたら、部屋の中はすっかり暗くなっていた。
 ……またやってしまった。貴重な休日を寝て過ごしてしまった。嫌な汗をかいて目が覚めた。寝すぎたせいか、少し頭が痛かったけどベッドから起きてダイニングへ向かう。

「チョコ、おはよう。よく寝ていたね」

 そこにはいつもと変わらぬ笑顔の圭季さんがお玉片手にキッチンに立っていた。その笑顔を見て、ほっとする。
 先ほど見た嫌な夢を思い出す。起きたら圭季さんは薫子さんと一緒にあたしの前からいなくなっていた、という内容の夢。だけどなんだか妙に生々しくて、嫌な汗をじっとりかいて目が覚めた。

「よく寝ていたから起こさなかったんだけど、ゆっくり眠れた?」

 圭季さんは味見をしながら聞いてくる。料理の手伝いをしようと思ってキッチンに向かったけど、ほとんど終わっているらしく、手伝うことはなにもなかった。

「もう少しでご飯だから、雅史さんを呼んできてくれる?」
「はーい」

 父の部屋に行き、ノックして扉を開ける。ベッドから足をはみ出したすごい体勢で父は寝ていた。

「お父さん、起きて。ご飯だよ」

 ゆさゆさとゆするとうーん、と身じろぎをして父は目を覚ました。しかし、親子そろって寝て、圭季さんにご飯を作ってもらうってどういうことよ。と心の中で突っ込みを入れる。
 ダイニングに行くとすでに料理は並べられていて、食べるばかりとなっていた。圭季さんはあたしと父が来たのを確認するとご飯と汁物をよそってテーブルに運んでくれた。

「あれ、那津は?」

 いつもはうっとうしいくらいにまとわりついてくる那津がいなくて不思議に思う。

「家から呼び出されて帰っている。今日は戻らないとさっき連絡があった」

 圭季さんの言葉にそうだ、とずっと疑問に思っていたことを思い出す。圭季さんはともかく、那津も当たり前のようにこの二週間ずっと、ここに寝泊まりしていたから気にしなかったけど、家族がいるはずだよね。どうやって親を言いくるめてここに来ているのか、それとも親がいないのかと思ったけど、やっぱりきちんと帰る家はあったのか。
 那津ひとりがいないとなんとなくなにを話していいのか分からなくて、ほとんど無言でご飯を食べる。父は食べるとさっさと自室に戻っていった。少し疲れたような表情をしていたけど、大丈夫かな? ここのところ毎日会議だとかで帰りも遅いみたいだし。
 圭季さんとふたりきりになり、なんとなく気まずい。朝の薫子さんのことを聞きたかったけど、またあの不機嫌な顔を見たくなくて、ご飯をさっさと食べる。
 那津がいたらいつも止められる片付けも久しぶりにすることができたのはよかったけど、なにを話していいのか分からなくて少し緊張する。圭季さんはいつもと変わらないように見えるけど、なんとなく朝のことは聞くな、という雰囲気を醸し出しているから口を開くことができなかった。こうして思うと、那津はあたしたちふたりの橋渡し役なんだな、と少しありがたみを感じた。
 お昼寝の時の夢の名残なのか、頭の芯が微妙に痛い。ご飯を食べたら治るかな、と期待したけど、ましになったかな? といった感じ。お風呂に入ればすっきりするかと思ったけど、なんとなく頭が重い感じが付きまとう。
 新学期が始まってからなんだか環境の変化があったから疲れているんだろうな、と思って早めに布団に入る。
 お昼寝をあんなにしたのにあっという間に眠ってしまった。




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