《十一話》秋の行事、目白押し01

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 夏休みが終わり、新学期が始まった。
 夏休み中の登校日で顔は合わせていたものの、改めて新学期が始まってクラスメイトを見ると、こんがり焼けている人、髪型が変わった人、雰囲気が大人になった人──それぞれみんな、夏休みを満喫してきたんだなぁ、というのが分かって、なんとなくうらやましかった。
 あたしは結局、一泊旅行以外は変わり映えのしない夏休みだったしなぁ。

「おーい、チョコ。手伝ってー」

 新学期早々、聞きたくない声が聞こえたっ!
 仕方がなく立ち上がり、はぁ、とひとつ、ため息をついてから立花センセの元へ行く。

「あれ? センセ、焼けました?」

 ぼさぼさ頭に太い黒ぶち眼鏡、しわしわの白衣は変わらなかったけど、恐ろしいほど白かった肌が若干黒くなっていた。

「あのなぁ、おれだって夏休みはそれなりにだな」

 そうですか。てっきりあたしと同じで引きこもりかと思っていましたよ。
 なんとなく裏切られた? 気分になりつつ、手伝うことにした。家庭科室に向かって一緒に歩いていると、

「あらぁ、立花先生」

 うわっ、でたっ! 薫子さんっ!

「……おはようございます、桜先生」
「おはよう」

 と言う時間ではなく、むしろもうお昼だしっ! と思って立花センセを見ると、予想外に顔をこわばらせて薫子さんを見ている。

「えーっと……あなた、確か……」

 薫子さんはわざとらしく考え込む振りをしている。

「そうそう、都さん。あなた、常に立花先生にひっついているけど、お仕事のお邪魔じゃないの?」

 にっこりと微笑んでいるけど、目が笑ってない。こっ、こわっ!

「ああ、こいつはおれの助手ですよ」

 とフォローを入れてくれたけど、いつから補佐から助手に昇格? しているんですかっ!

「あらぁ、そうだったんですかぁ。だけど、都さんも受験生でしょう? わたし、手が空いてますから、なんならお手伝い……」
「結構です」

 立花センセはきっぱりと薫子さんに断わりを入れていた。

「そうですか。残念ですわ。考えが変わったら、ご連絡くださいね」

 そうして、薫子さんは立花センセの耳元でなにか囁いて、にっこりと微笑んでから手をひらひらさせて立ち去って行った。なにを言われたのか知らないけど、その一言で立花センセの顔は真っ青に。

「せ、センセ、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫」

 大丈夫、という感じではなかったけど、自分の足できちんと歩いていたから本人が言う通り、大丈夫なんだろう。

「そうそう、はい、センセ」

 袋に入れたクッキーを手渡す。

「夏の疲れをいやしてくれる、マンゴークッキーですよ!」

 そんな効果があるかどうか知らないけど、気分よ、気分!
 そういえば、と思い出す。夏休み中、圭季が水だし紅茶なるものを出してくれたのを思い出した。今年流行り?のアルフォンソマンゴー入りの紅茶で、ものすごくいい香りがして、さらに紅茶の渋みも少なくて、ものすごく美味しかったのを思い出した。あの紅茶とこのクッキー、美味しそうだな。

「お、ありがとう」

 うれしそうに受け取り、早速食べてるあたり、たまに本当にこの人は先生なのか? と疑問に思う。だからなんとなくあたしの中では『立花先生』ではなくて『立花センセ』なんだけど。やっぱりその思いは変わらない。

「で、なにをすればいいですか?」

 クッキーをぱくついているセンセは喉に詰めたらしく、胸元をどんどん、と叩いて飲み物を飲んでから、

「そこにあるプリント、セットにして止めてほしい」

 もー、それくらい自分でしなさいよっ!
 ムッとしつつ、言われるがままにセットにして止めていく。
 だけどセンセ、結構まめにこういうプリント類を作るよねぇ。しかも、分かりやすいし。人使いの荒さがなければいいんだけどねぇ……。
 って、なにがどういいんだ、あたしっ!?
 手伝いが終わって教室に戻ると、梨奈が来ていた。こら中学生っ!

「チョコちゃん、いたぁ!」

 とうるうるした瞳で見つめられ、ドキドキする。そんな顔で見つめられたら、男じゃなくてもドキドキするっ!

「クッキー……」

 両手をさしだされ、おねだりされた。その姿は那津と一緒で、苦笑してしまう。

「あるよ」

 先ほど、立花センセに渡したのと同じものを梨奈に渡す。

「ありがと~! もう、夏休み中ずっと、これが食べたくてっ!」

 わーい、と喜びながら梨奈はその場で包みを開けて、食べ始める。もう、どんだけみんな、飢えてんのよっ!

「マンゴークッキー?」
「うん、そうだよ」

 さくさく、といい音をさせて梨奈はクッキーを食べている。なんだか餌付けしてるみたいだ、あたし。

「今度の土曜日に泊まりに行くから、その時、このクッキーの作り方、教えて!」

 梨奈は残りのクッキーを手に、叫びながら教室を出て行った。梨奈がいなくなってからちょっとさみしく思っていたから、泊まりに来てくれるのはうれしい。
 梨奈が教室から出て行ったタイミングで、那津が帰ってきた。

「ふぅ……」

 わざとらしく、ひたいをぬぐっている。梨奈がいるから雲隠れしていた? そう聞こうと思って口を開いた瞬間、予鈴が鳴り始めたので聞くのはやめた。





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