GENESIS Generation/ジェネシス学園へようこそ01

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「玲菜(れいな)さま、もう少しで目的地、ジェネシス・プラネットに到着します」
 ジェネシス歴一五二年、上之宮玲菜(うえのみや れいな)は、執事の曽根川(そねかわ)ひかるとともに、二か月遅れでジェネシス・プラネットにあるジェネシス学園へ向かっていた。
 玲菜は、淡い黄色の少し癖のある髪に青い瞳の、今年十六になる少女。両親は地球で人間以外の動物・植物の繁殖・管理を手掛けている研究者だ。地球で仕事をしている人間はいわゆるジェネシス政府の中でもエリート中のエリートで、玲菜の家も例外なく裕福な家庭であった。玲菜は今、執事のひかるとともに自家用の宇宙船の中にいる。
「あー、早く外に出たいわ。お父さまが頑固だから、こんな狭くて乗り心地の悪い自家用宇宙船で地球からジェネシスまで行く羽目になるなんて。ほんっと信じらんないっ」
 本来なら、玲菜は他の地球育ちの子たちと一緒にジェネシス学園に入学のために政府が所有している大型宇宙船でジェネシス・プラネットに行くことになっていたのだ。ところが、行く直前になり、急に玲菜の父が行くことを反対して、行く行かないともめている間に宇宙船は旅立ってしまった、という経緯がある。
「玲菜さま、お父さまはかわいいひとり娘が地球を離れてジェネシスに行くのが心配なのですよ」
「そうは言ってもっ! もう何年も前から決まっていたことですし、なんで直前になってあんな風に反対するのかしら」
 玲菜は出発前日になって急に行くのをやめるように言って来た父を思い出し、不機嫌になる。
「地球育ちのわたくしみたいな子たちは十六になったらあそこに行くのは当たり前なのに。なんなのよ、一体」
 玲菜はこれで何度目になるのか分からない同じ愚痴を口にする。ひかるは無感動な表情で玲菜を見て、
「玲菜さま、もう少しで目的地であるジェネシス・プラネットに到着いたします。着陸の際、かなりの衝撃がありますので、座席に座ってシートベルトをして、静かにお待ちくださいませ」
 玲菜を座席に座らせ、ベルトをしたのを確認して、ひかるも同じように席に着く。
『間もなく、ジェネシス空港へ到着します』
 無機質な女の声が船内に響く。玲菜はベルトをギュッと握り、着陸の衝撃に覚悟を決める。
 ぽーん、と音が鳴り、成層圏に突入した。身体にかなりの重力がかかる。技術が進み、だいぶましになったとは言っても、やはりこの瞬間は身体にかなりの負担がかかる。
 しばらく目をつむって我慢していると、ゆっくりと身体にかかっていた圧力がゆるくなり、再度、ぽーんと音がして、成層圏を抜け、対流圏に入ったことを告げる。しかし、ここで安心してはいられない。これから、地面に着陸をする、という一番のイベントが残っているのだ。
 ゆっくりと宇宙船は下降して、空港の滑走路へ向かっている。大きく旋回して、それまでのスピードを殺して、ようやく高度を落として滑走路へ着陸する。滑走路にタイヤが触れた瞬間、身体が大きく跳ね上がる。口を開いていると、舌を切ってしまう可能性があるので、玲菜は必要以上に口を閉じ、力を込めていたのであごが痛くなった。
 宇宙船は耳をつんざくようなすごい音を立てて、ブレーキをかける。かなり走り、滑走路ぎりぎりでようやく止まった。
 これだけ技術が進んでもこういうのはあまり変わらないのね、と玲菜は心の中で突っ込みを入れる。
 父と母は自分たちの研究を継いでほしい、と思っているようだが、玲菜は本気で成層圏突入の時の身体の衝撃と着陸の時のこの衝撃を軽減する研究をしたいと、乗るたびに思う。だけど、降りてしまったらもう忘れているのだけど。
「玲菜さま、お疲れさまでございました」
「ほんと、疲れたわ」
 ひかるのねぎらいの言葉に玲菜は本音で答える。
「玲菜さま、このまま直接、学園へと向かわれますか」
 他になんの選択肢があるのだろう、と玲菜は疑問に思いつつ、
「学園へ向かうわ」
 シートベルトをはずし、重くて暑っ苦しい防護服を脱ぎ捨てる。
「はー、せいせいするわ」
 白いワンピースのしわを整え、入口を開けて外へと出ようと扉の向こうを見る。
「え……」
 玲菜はそこで、立ち止まる。
「ひかる、ちょっと」
 玲菜の後ろから歩いてきたひかるに声をかけ、入口から後ろに下がって道を開ける。
「どうされました?」
 ひかるは疑問に思い、玲菜に譲ってもらった入口から外を見る。
「これは」
 ひかるも外を見て、絶句している。
 ジェネシス・プラネットは、地球に勝るとも劣らぬ、美しい星だと聞いていた。それなのに、目の前に広がる風景は、荒れ果てた大地。
「ひかるは聞いていた?」
「いえ」
 ジェネシス・プラネットに向かう船内で玲菜はひかると散々、地球より美しいなんていうけど、地球以上に美しいところがあるわけないじゃない、と話をしてきたばかりだ。それに、最近の写真というのを見て、地球のあそこの方がこれなら美しいわよね、とまで比較しながら来たのだ。
「もしかして、お父さまはこのことをご存知で」
 だから理由は言えないが、行くのはやめろ、と言っていたのだろうか。
 玲菜は実は、父の許可をきちんと取らずに半ば家出同然でここには来ていた。宇宙船を出発させた時点で父は気がついていただろうし、止めようと思えばいくらでも手段はあったのにそれをしてこなかったのは許可を得られたのだろう、と思っていたのだが。
 実は、玲菜が地球脱出を図ったタイミングで玲菜の両親にも大変なことが起こっていたなんて、この時に玲菜はまったく知る由もなかった。
 玲菜のこの選択は、両親のことを知って間違いではなかったと分かるのは、まだ先の話である。
「と、とにかく、学園に向かいましょう」
 宇宙船にいつまでもいても仕方がないことを知り、玲菜はジェネシス・プラネットに降り立つ。少し先から、カートがやってきた。
『身分証を提示願います』
 カートから無機質な声がしてきたので、腕にはめた身分証を提示する。
『ピピピ、エラー』
 エラー?
 玲菜は不思議に思い、もう一度カートの身分証を掲げるところに乗せるが、結果は同じだ。
「玲菜さま、まずいです」
 ひかるは玲菜を抱え、宇宙船に飛び乗る。そうして扉を閉め、宇宙船の操縦を手動にして、運転をする。
「玲菜さま、座ってベルトをして!」
 ひかるの言葉に従い、玲菜は急いで座席へ座り、シートベルトを締める。ひかるは玲菜を確認する前に操縦かんを握り、外部が見えるようにする。
 前方から、偵察ロボットが向かってくるのが見えた。無駄な交戦は今は避け、まっすぐこのまま学園へ向かうのが得策と判断して地図を開く。
 が。
「玲菜さま、まずいです。地図データが受信できません」
「は? 有り得ないでしょ」
 偵察ロボットを避けるために右へ左へと傾く宇宙船の船内で、気持ち悪さを我慢していた玲菜はそう一言告げる。
「蓄積データは?」
「今、呼び出しています」
 通常であれば星の近くにある衛星にデータが置かれていて、そこにアクセスをして手元の端末に情報を表示するのだが、どういうことか、衛星からデータが届かない。
「このまま学園へ向かいます」
「そうね、そうして」
 玲菜は気持ち悪さを追いやるために目を固く閉じる。しかし、去るどころか、ますます激しく揺れる船内に気持ち悪さは増すばかり。
「少し跳びます」
 ひかるはそれだけ告げると一瞬後、宇宙船は突然角度を上げ、激しい重力が身体にかかる。玲菜はその独特の感覚に顔をしかめる。
 そして、妙な浮遊感の後、身体がバウンドする。どうにか着地したようだ。
 しかし、これで安堵というわけではないらしい。
 ひかるは後ろも見えるように外のカメラを有効にすると、後ろから恐ろしい数の偵察ロボットが迫ってきている。
「玲菜さま、後ろに迫っているあれらは」
「倒してもキリがないでしょう? それにこの宇宙船には攻撃できるものがなにもない」
 玲菜の答えはもっともだったので、ひかるはもう一度、跳ぶ。
「ひかる、もう跳ぶのはやめて!」
 ひかるは何度か跳ぶことを繰り返し、どうにか偵察ロボットの大半をまくことに成功はしたらしいが、玲菜がとうとう音をあげた。
「了解しました。もう少しでとうちゃ」
 ひかるは、いきなり目の前に現れた偵察ロボットの群れに驚く。しかし、宇宙船を方向転換する間もなく、その群れに突っ込む。
「きゃっ!」
 思った以上の衝撃に、玲菜は思わず悲鳴を上げる。ひかるは大きく宇宙船を切り、偵察ロボットの群れから抜け出す。が、今のでかなりの損傷を負ったようだ。船内に赤いランプがともり、アラートが鳴り響く。
「玲菜さま、もう一度跳びます。今度は先ほどより長い飛躍になりますが、いいですか」
「……嫌だけど、やって」
「了解」
 ひかるは短く返答して、速度を上げる。燃料計を見ると、ぎりぎりのようだ。この跳躍がうまくいけば、学園にたどり着く。もしかしたら、とんでもない場所に出る可能性も無きにしも非ず、だが。
 限界までスピードを上げ、
「跳びます」
 ひかるは宣言し、ボタンを押す。先ほどの比にならないほどの重力がかかる。防護服を着ていないことに玲菜は後悔する。しかし、ここで偵察ロボットにつかまるわけにはいかないのだ。
 身分証がエラーになる意味が分からなかったが、地球の両親がなにかしたのかもしれない。あのふたりは、連れ戻す気でいるのだろう。
 今ここで、つかまるわけにはいかない。
 玲菜の思いを知っているひかるは、玲菜のために必死に宇宙船を操縦する。
 もともと、宇宙船はこういう風にするものではない。宇宙を航行するものであって、惑星の上をこうやって走らせたりましてや、ワープの要領で跳ばしたりというのは本来、やってはいけない行為なのである。
 しかし、つかまるわけにはいかない。お咎めがあるかもしれないが、学園にもぐりこんでしまえば、どうにかなる。
 ジェネシス・プラネットは基本的には地球の法律が適用されるが、学園は別物らしいので、保護してくれるはずだ。
 ひかるは胸元におさめている玲菜の学園入学許可証をギュッと握り、外を映している画面をじっと見る。
 予想通り、学園のとんでもない場所に出てしまいそうだ。被害を小さくするため、宇宙船を微調整するが。
 ものすごい音がして、船体が揺れ、衝撃が走る。
「ひかる、大変っ! 後ろ全部持ってかれた!」
 後ろから、激しい風が襲ってくる。どうやら、偵察ロボットがとうとう攻撃をしてきて、宇宙船の後ろに攻撃が当たったらしい。
「玲菜さま、防護服、着れますか?」
「あんたねっ! こんな状況で。きゃっ!」
 玲菜の肩を弾がかすめ、床に穴が空く。
「向こう、相当腕の立つのがいるみたいですね」
 ひかるは無表情につぶやく。先ほど、肩をかすめた弾丸がベルトを切り裂き、玲菜は飛ばされそうになっている。かろうじて今、座っていた座席の背の部分をつかみ、宇宙船内にどうにかいる状況だ。
「ひかる、どうにかして!」
「玲菜さま、申し訳ございません。そのままあと三秒ほど。口閉じて」
 ひかるに言われた通り、玲菜は歯を食いしばって口を閉じる。
 と、次の瞬間。
 ひかるは後ろを振り返り、しゃがみこみ、足の力だけで玲菜に向かって飛ぶ。玲菜はひかるの意図をすぐに察して、できるだけ体勢を整える。ひかるは玲菜の身体を抱え、船外へと飛び出す。
 ふたりはもつれ合うように地面に落ち、勢いを殺すために転がる。
 乗っていた宇宙船は地面に思いっきりぶち当たり、すごい音を立てて爆発する。
 その音に、学園内から何事かと人が出てくる。
 ひかるは腕の中で目を強く閉じ、歯を食いしばっている玲菜に声をかける。
「玲菜さま、ご無事ですか」
 玲菜はあまりの衝撃にすぐに言葉が出なかった。ひかるが守ってくれたので思ったよりは大丈夫だったが、それでも身体の節々が痛む。


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