《十二章》「お誘い」

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 さすがに早い時間というだけあって、外に出るとまだ明るかった。
「ちょっと待ってくれる? 家に電話するから」
 奈津美は携帯を取り出し、自宅へかけた。
「あ、お母さん? 今日の夕飯、食べて帰る」
 二、三言話し、奈津美は電話を切った。
「佳山さん、なにが食べたいですか?」
「あの、その佳山っていうの、やめてくれない?」
「なんで?」
 奈津美はきょとんとして聞いた。
「みんなオレのこと、蓮って呼ぶし」
 ああ、と奈津美は思い出していた。一之瀬さんも蓮、って呼んでいた。
「じゃあ、蓮、でいいの?」
「うん、その方が座りがいい」
「じゃあ、改めて。蓮はなにか食べられないもの、ある?」
 なんとなく、名前で呼ぶのはくすぐったい。
「うーん……。好き嫌いは基本、ないけど」
「けど?」
「オレ、酒飲めないから。がっつりご飯を食べたい」
「ご飯かー」
 奈津美はこの近辺の飲食店データベースを頭の中に開き、考えた。しばらく考えても、お店が思い当らなかった。
「お酒飲めるお店ならすぐに出てくるんだけど……」
「先輩、酒豪?」
「ううん」
 お酒が好きな貴史のために、いつもお店を調べていたのを思い出して、また悲しくなった。
「またその顔する。……ごめん」
 蓮はなにか悪いことを言ったと思ったのか、謝った。
「あ、うん。こっちこそ、ごめんね」
「先輩が思い当らないのなら、オレ、知ってるから」
 蓮はついてきて、と合図をした。奈津美は素直についていった。
 駅の改札に着き、蓮はそのまま改札を通る。
「どこまで……?」
「いいからついてきて」
 奈津美は疑問に思いつつ、改札を通る。電車に乗り、2駅目で降りた。
「こっち」
 どう見ても住宅地を通り、ついたのはアパート。
「ここ……?」
 蓮は慣れた手つきでドアに手をかけ、鍵を開ける。
「入って」
「って、ここ……」
 ちらっと表札を見ると、「佳山」と掛かっていた。
「うん、オレんち」
「!? か、帰る!」
 奈津美は慌ててくるっとまわれ右、をした。
「うん、帰ってもいいけど。たぶん駅、どこだかわからないでしょ?」
「~~~!!!」
 後ろを振り向くと、意地悪な表情をした蓮がいた。
「別になにもしないから。夕食作るから、一緒に食べてくれない?」
 奈津美は意を決して、部屋に入った。
「朝出かけたままだから、散らかってるけど適当に座ってて」
 1DKの部屋は、きれいに片づけられていた。
 蓮はなにも言わずにいきなり服を脱ぎ始めた。
「ちょ!」
「あ、別にみてもいいよ?」
 にやにやした声が聞こえた。
「見ません!」
 奈津美は蓮に背を向けた。
「もういいよ、着替えたから」
 と言われても、しばらく奈津美は動けなかった。


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