《二十九章》「対面」

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「ねーさんがまたコンサートするらしくってさ、はい」
 チケットを2枚渡された。
「? なに?」
「これ、ご両親にあげて」
「え?」
 確かに蓮にうちの母が葵さんのファンなんだって、って言ったけど。
「え、だって」
「あ、オレたちのもあるから、心配しないで」
 ひらひらとチケットをもう2枚、見せてくれた。
「う、あ、えっと」
「いいから、素直に受け取りなさい」
「……はい」
 最近、なんか立場逆転してる? って気もしないでもないけど。
「ありがとう」
 日にちを見たら、クリスマスイブ。
「横4人並ぶなんて野暮な取り方はしてないから、心配しないで」
 あー、いやー、そういう問題ではなくて!
 奈津美は帰って早速、母にチケットを渡した。
「まあ、ほんと!? あら、うれし?!」
 と素直に喜んでいる。父さんはかなり渋い顔をしていたけど、うれしい時、あんな顔をするのを知っている。
 喜んでもらえたみたいで、よかった。
 蓮にすごい喜んでいたよ、って話をしたら、かなり緊張した顔で「そうか」って。
 あれ? なんで?
 でもすぐに仕事の話を振られたから、気にしないでいた。

   *   *

 そして、クリスマスイブ。
 仕事が終わり、蓮と一緒に会場へ。
 今回は前回の失敗を踏まえて、かわいい服を着てきたし、葵さんの好きなお菓子も買ってきたし。蓮に葵さんの好みを聞いておいて、よかった。前と同じように楽屋に行って、あいさつ。
「オレの彼女」
 とぶっきらぼうに蓮は紹介してくれた。
 前回の非礼を詫びて、お菓子を渡したら、
「いらないわよ、って言いたかったんだけど。わたしこれ、すっごく好きなのよ! いやーん、ありがとー!」
 抱きつかれた。
 蓮に似ているから、ものすごくどきっとしたけど、その抱きつかれた身体はまさしく女の人で、なんだか複雑な気分だった。
 ふと蓮を見ると、苦笑と言うか……なんだろう、なんて言っていいのか……ものすごく複雑な顔をしていた。
 なんで?
「いやん蓮、こんなかわいい義妹なら私、大歓迎よ」
「い……義妹……!?」
 葵の言葉に、奈津美は目を白黒させた。
「あ、うん。ねーさんが認めてくれるならオレ、やっぱり選択間違ってなかったって思うわ」
「前に来てくれた時もわたし的には気がきく子だって思ったんだけど、うん、いいわ」
 なんにも持っていかなかったのに?
「もうね、両手で抱えられないくらいの花束だとかいろいろもらって、大変なの。だから、ほんと、来てくれるだけでわたしうれしくって」
 そうなんだ。
「今日も楽しんでいってね」
「はい、ありがとうございます」
 お礼を言って、楽屋を後にした。
 席に着くと、少し前に見慣れた奈津美の父と母の頭が見えた。ふたり仲良く座って、なにか話していた。
 奈津美は前と同じようにパンフレットを見て、開演を待った。

   *   *

 今回のこのコンサート、『恋人たちのクリスマス』というタイトルを冠しているだけあって、聞きに来ている観客はほとんどがカップルだった。なんて直球な、とちょっと苦笑。
 開演のベルが鳴ると、ざわめきが消えた。幕が上がり、舞台の上は一面の雪景色。
 蓮が手を握ってきた。奈津美は蓮を見て、握り返した。
 舞台にバイオリンを持った葵が歩いてきた。
 今日はサンタクロースを意識してか、赤いドレスに白いファーがついた、ふんわりシフォンのドレス。
 葵は優雅にお辞儀をして、バイオリンをかまえた。聞き覚えのあるクリスマスソングを何曲か披露して、かなりいいムード。その後は何曲か葵のオリジナル曲を弾いた。この間、アンコールで弾いた『告白』も入っていて、奈津美はドキッとした。
 蓮を見ると、優しく笑っていた。
 ああ、なんて幸せな時間だろう。幸せな時間も、悲しい時間も、苦しい時間も嫌な時間も終わるのを、奈津美は知っている。それでも、この幸せな時間が少しでも長く続いてくれるように……。そう願いたくなった。
 前回と同じようになりやまないスタンディングオベーション。
 蓮は奈津美を連れて、外に出た。そこにちょうど、奈津美の両親も出てきた。
「あ、お父さん、お母さん」
 奈津美は手を振って合図した。
「奈津美」
 ふたりは奈津美の後ろにいる蓮に気が付いた。
「あ……?」
 奈津美の母はあれ? と言う顔をした。
「あ、佳山蓮さん。あの……私のかかか、彼氏……」
 蓮は奈津美の父と母に深々とお辞儀をして、
「今日は私の姉のコンサートにわざわざお越しくださいまして、ありがとうございます。佳山蓮と申します。大切なお嬢様と真面目にお付き合いさせていただいてます」
 真面目に挨拶されて、奈津美まで妙に緊張してしまった。
「あら、お姉さんだったの。そっくりでびっくりしちゃった」
 奈津美の母はそう言ってその場の緊張感をほぐそうとするが、隣に立っている父がぶるぶると拳を震わせているのを見て、奈津美は泣きたくなった。
「奈津美、帰るぞ」
 奈津美の父は怒りを露にして、ずしずしと音がしそうなほどの勢いで歩き始めた。奈津美の母は蓮にお辞儀をして、父のあとに続いた。
「蓮、ごめんね」
「うん、殴られなかっただけ、良かった。今日はもう帰れ」
「あ、でも」
 奈津美は泣きそうだった。
「オレのことはいいから。また明日な」
 蓮に背中を押され、奈津美は歩き出した。ふと後ろを見たら、蓮は手を振ってくれていた。
「お母さん、お父さん」
 奈津美は前を歩いていたふたりを呼び止めた。
「あら、奈津美。せっかくのイブなのに。行かないの?」
「だってお父さんが」
「あらやだ。私たちも久しぶりに二人っきりで過ごしたいわよ。ねぇ、あなた?」
 とにっこり笑った顔が怖くて……。
「あ……。ああ」
 父のひきつった顔は、諦めていた。
「……仕方がない。行ってこい」
「あ、お父さん、お母さん、ありがとう!」
 奈津美はふたりに頭を下げ、後ろを振り返った。
「蓮……」
 後ろには蓮が立っていた。
「大事にしますから」
 蓮の言葉に、
「……好きにしろっ」
 ふんっと憤って、奈津美の父は去った。母は振り返って手をひらひらさせて、父に寄り添って歩いていった。
「ほんと、ごめんね」
「大切な娘を盗られた瞬間だからね。仕方がないだろ」
 お父さん、帰って泣くのかな?奈津美は変な心配をした。
「ご飯、どうしよ?」
「今日なんてどこ行ってもカップルばかりだろ。家で食べよう」
 自分たちのことを棚にあげているのがおかしかったが、確かに一理あったので、蓮の提案に賛成した。
 会場の外に出ると、寒かった。
「今日こそ雪、降るかな?」
「どうだろう」
 蓮はギュッと手を握ってきた。奈津美は蓮を見上げ、寄り添った。


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