《三十四章》「奈津美からのプレゼント」

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 定時に終わり、なにも言わないでふたりは蓮の家に行った。
「ちょっと買い物して帰ろうか」
 いつもの道の途中でそれて、別の道を行った。奈津美は黙ってついて行った。
「へー、こんなところにスーパーがあったんだ」
「うん。安くていいものを置いてるから、結構重宝してる」
 蓮は慣れた手つきでかごを持ち、次々と食材を入れていく。レジに行って顔見知りらしく、挨拶をしながら会計していた。奈津美はそんな蓮を見ていた。
「やっぱり、蓮の方がよっぽど女らしい」
「それ、褒めてない」
 ちょっと怒った響きを感じて、奈津美は謝った。
「ごめん……」
「あ、いや。オレの方こそ、ごめん」
 スーパーから蓮のアパートまでの道は、お互い無言だった。
 アパートについて、両手がふさがっている蓮に代わって鍵をあけて、奈津美も部屋に入った。
 蓮は買ってきた食材を冷蔵庫に入れていた。
 奈津美はバッグの中から箱を取り出した。
「蓮、これ」
「?」
 食材を片づけ終わった蓮は奈津美の言葉に顔を上げた。冷蔵庫を閉め、奈津美から箱を受け取る。
「……開けていい?」
「うん」
 きれいに包装された包みを開け、箱を取り出す。
 箱の中にはケースが入っていて、中を開けた。
「これ……」
 中には、ネクタイピンが入っていた。
「えっと、名前も入れてもらったの」
 流線型が美しいホワイトゴールドのネクタイピンだった。裏を返すと、「R.Kayama」と名前が入っていた。
「あ、ありがとう」
 こういうとき、どう返せばいいのか分からなくて、蓮は戸惑った。蓮はうれしくて、奈津美を抱きしめた。
「こういうの、慣れてなくって。どうすればいいかわかんない」
 蓮は素直に言った。
「うん、喜んでくれたのなら、それでいいの」
 クリスマスプレゼントはなににしようかものすごく悩んで、ふと蓮を見たらスーツとネクタイに合わせてネクタイピンを変えているのを見て、あ、これならいいかなと思ってデパートに行ってみたけど……。デザインがいまいちで、インターネットでぼーっと見ていたらすごくいい感じのを見つけて。名前も入れてくれるってあるから、それもお願いした。早速注文したけど、クリスマスに間に合うか間に合わないか。間に合わなくてもいいか、って思っていたら。ものすごく頑張ってくれたらしく、昨日、家に届いていたらしい。あとでお礼のメールをしておかなければ。
「プラチナがよかったんだけど、ちょっと手が届かなくて。ホワイトゴールドにしたんだけど……」
「うん、オレ。こういうデザイン、好きだよ」
 ネクタイピンってあんまり若い人がしているイメージってないけど、奈津美としてはネクタイピンをしてスーツを着こなしている男って結構憧れる。
 着替える前に食材を片づけていたので、蓮はまだスーツのままだった。早速蓮は今しているピンを外し、もらったばかりのピンをしてみた。
「いいね、それ」
 奈津美は蓮を見て、うんうんとうなづいている。
「ちょっと奈津美、それっておっさんぽい」
「あ、最近たまに言われる」
 蓮は頭を抱えた。
「ねぇねぇ」
 奈津美はいたずらっ子な瞳で、蓮を見た。
「眼鏡、持ってない?」
「眼鏡? 伊達眼鏡ならあるけど」
「あ、かけてかけて!」
 蓮は疑問に思いつつ、眼鏡を出してきてかけた。
「あ、やだ。すてき……」
 奈津美の言葉に、蓮は照れる。
「もしかして奈津美って……」
「あらやだ。メガネフェチなのがばれた」
 なんだそれ。
「スーツに眼鏡! いい男の条件!」
「奈津美さん、なんかそれ違うから」
 ふと蓮は貴史のことを思い出した。あ、あいつも確かに眼鏡をかけていた。なんとなく不愉快になったけど、まあ、奈津美が喜んでくれるからいいか。
「って、そろそろ着替えていいでしょうか、奈津美さま」
「あ、うん。ごめん」
 にやにやしながら携帯電話のカメラで写真を撮っている奈津美を見て、ちょっと選択を間違ったかな、とぼんやり蓮は思っていた。


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