《四十六章》「企画部」

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 青本から3日後に連絡がきた。
「話を詰めたいから打ち合わせにきてほしい」
 と言われ、奈津美と蓮は企画部に出向いた。奈津美は企画部に着いて、痛い視線をあちこちで感じた。疑問に思いつつ、青本について打ち合わせ室に入る。
「気のせいか、視線が痛かったんですが」
 青本が忘れ物を取りにいった隙に奈津美は蓮に言った。
「あ、うん」
 蓮の曖昧な返事に突っ込みを入れようとしたら、青本が戻ってきた。
「失礼します」
 青本はもうひとり、女の人を連れてきた。
「ぼくの補佐の栗林さん」
「栗林です、よろしくお願いします」
 奈津美と蓮は栗林と名刺交換をした。
「佳山は栗林さんと面識ある?」
「オレがいなくなってから入った人だろ。その方がオレは仕事がしやすい」
「そうだと思った」
 青本は苦笑いをして、椅子に座った。
「佳山は仕事出来ないヤツには容赦しなくてな。まあ、企画部にいたときは結構いろんなやつとやりあったんだよな」
「過去の話はするな」
 蓮はばつが悪そうな顔をした。
「そうなの? 今は全然そんなことないよ?」
「それはあなたがきちんと仕事をしているからでしょ」
 そう言われ、蓮と他の人の会話を思い出し、少し納得した。
「あー。たまに女の人を泣かしてた」
「っ! 見てた!?」
「うん。何度かなぐさめた覚えがある」
 蓮は仕事に関しては、男女関係なく容赦ない。
「この間、新人くんを泣かしていた。私、どうすればいいか分からなくて、困ったよ」
 奈津美の言葉に青本は苦笑した。
「小林先輩も結構叱ってるんだけど、どうもオレがいくら言ってもめげなくて」
「あれ、叱ってるうちに入るの?」
「うん。オレ、他の人にもあの程度しか言ってないよ?」
 聞く人によっては蓮の言い方は結構心にくる。
「聞く人次第か」
「ですねぇ。なんとも思わないよ」
「いや、なんとか思ってください……。始末するオレの身になってよ」
 奈津美の言葉に蓮は頭を抱えた。
「えー。私の後ろを守るのが蓮の役割じゃん。人には得手不得手があるんだから」
「にしても、後ろがら空きすぎ」
「分かった。おまえたちが公私共にいいコンビなのは分かったから、話をすすめよう」
「ごめんなさい」
「ごめん」
 奈津美と蓮はほぼ同時に謝り、青本と栗林に笑われた。

   *   *

 奈津美と蓮はほぼ毎日、残業の日々を送っていた。
「終電を気にしなくていいのは楽だけど、かなりしんどいね」
「久しぶりに土日連休にしようか」
「うん。そうしないと、死ぬ」
 織物工場の社長に相談したり、レミと金額交渉をしたり、デザインをつめなおしたり。企画部とも話をしなければならないし、角谷への報告もあった。
「土日休みにするのなら、私、がんばる」
 奈津美は無言になり、いろんな資料をかきわけたり、調べものをしたりして、日にちが変わる頃にはほとんど片付いていた。
「蓮の方はどう?」
「もう終わった」
「はやっ」
 奈津美はふう、と一息ついて、伸びをした。
「私はもうちょっと」
「じゃあオレ、奈津美の周りを片付けるな」
「よろしく」
 奈津美は視線をパソコンに戻し、続きに取りかかった。
「よっし、終わり!」
 奈津美はファイルを保存して、バックアップもきちんととってパソコンの電源を落とした。
「お疲れさま」
 蓮は奈津美の頭をくしゃっとした。
「これで身の回りも片付けられたら、完璧」
「蓮が甘やかすから、無理」
「甘やかしてるのか?」
「かなり」
 奈津美は笑った。
「サポートとは言わないのか」
「サポートじゃなくてこれは甘やかし。だって自分で出来ることを蓮がしてるじゃない」
「はいはい。それよりも着替えに行きましょうか」
 あの件があってから、残業の時の着替えは蓮がついていくことになっていた。二度目はないはずだが、分からない。
 一緒に更衣室に入るが、蓮は奈津美に背を向ける。着替え終わるまでは振り向かない約束になっていた。
「お待たせ」
 奈津美は着替え、バッグを手に持ち、反対の手で蓮の手を取った。
「帰ろ」


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