《終章》「ふたりの結婚式」

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 季節は移り変わり。
 クリスマスが来て、正月が来て。
 慌ただしく過ぎる時間の中、奈津美と蓮は日々、絆を深めていった。
 仕事でたまにものすごいけんかをすることはあるけど(伝説になるほどの壮絶なものもあったらしい……とだけ記しておこう)、プライベートではけんかすることもなく。

 葵にBGMを弾いてもらうと蓮は言い張り、葵の都合で結婚式は年が開けてさらに暖かくなった4月になった。
 奈津美はレミがデザインしてくれたあの白いバラをイメージしたドレスにした。
 これがイメージ通りに作るのが大変で……奈津美は妥協を許さず、かなりいろんな人たちに嫌がられた。
「あれだけは妥協できなかったの!」
 蓮にいさめられたが、奈津美はそう言い張った。

   *   *

 そして迎えた、結婚式。
 ソメイヨシノはとうの昔に散り、八重桜が咲き誇る時期。
「どうせなら6月のジューンブライドにすればよかったのに」
 と美歌は言ったけれど。
「なんで梅雨時に好き好んでしないといけないの。この季節が好きだから、いいの」
 奈津美の言い分はもっともだな、と美歌は笑った。
 みんな、忙しい時期なのは分かっていた。新学期・新年度でそわそわした落ち着かない時期。だからこそ、みんなに少しでも幸せのお裾分けをして、忙しさの中でホッとしてもらいたかった。
「あたし、結婚ってゴールだと思っていたの。小説やマンガなんて、結婚してハッピーエンドじゃない?」
「うん」
 奈津美は美歌に向き合った。
「結婚したらあたしは幸せになれるって、あの時は信じていた」
 『彼にプロポーズされたの』と言った美歌の笑顔を思い出して、奈津美は少し、心が痛んだ。
「でもね、違ったの」
 その後のことは、噂でうっすらとしか知らない。詳しいことを知りたいとも思わないし、目の前に本人がいても聞きたいとも思わない。
「結婚はゴールではなくて、スタートだったって」
「スタートか」
 奈津美は美歌の言葉にうなずいた。
「そうね。分かるわ、それ」
 結婚はふたりの二人三脚のスタート地点。
 途中、美歌と貴史のように新しい命を授かって家族が増えたり。
 時にはけんかしたり。
 幸せを共有したり。
 協力して困難を乗り越えたり。
「あたし、気がついたの。人生、いつでもスタートラインに立てるって」
 離婚寸前までいったふたりの言葉だから、重みが違った。
「だからね、あんなことしておいて言いにくいけど……。また、あたしと友だちになってくれる?」
「当たり前じゃない、もちろんよ」
 奈津美と美歌は握手した。

   *   *

 奈津美は式場のスタッフに呼ばれた。
「行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
 スタッフに連れられて廊下に出ると、奈津美の父と母がいた。
「お父さん、お母さん……」
「はーい、ストップ。お決まりの『お世話になりました』はなしね?」
 奈津美の母はうっすらと瞳に涙を浮かべていた。奈津美の父はすでに号泣していた。
「お父さん……お酒飲んだ?」
「シラフでいられるかー!」
 …………奈津美は呆れて、父をみた。
 奈津美は父と手をつなぎ、母は後ろからゆっくりとついてくる。
 今日のこの日のために妥協しなかったドレスは、幸せそうに奈津美の歩みに合わせて揺れていた。
 会場の扉の前に立ち、奈津美はゆっくりと深呼吸した。

『新婦とご両親の入場です!』

 扉が開かれ、中から割れるほどの拍手が鳴り響く。奈津美はうれしくて、にこにこ笑って歩き始めた。
「なっちゃん、きれいー」
「かわいいよー」
「おめでとう!」
 見知った顔が、口々にお祝いの言葉を言ってくれる。奈津美はうれしくて、みんなの顔をゆっくり見ながら、前へと進んだ。
 会場の正面には、蓮が蓮の父と母と待っていた。葵は横で、楽しそうにバイオリンを弾いている。
 三人は正面にたどり着き、父はなごり惜しそうに奈津美の手を蓮に渡した。
 蓮と奈津美の父が見つめ合う。
 そこには男同士の瞳の会話があって、奈津美は素敵だな、と思った。
 奈津美と蓮はそろって立ち、お辞儀をした。
 会場がしんと静まり返った。
 蓮はマイクを構え、
『わたしたち佳山蓮と』
『奈津美は』
『今日、ここに集まってくださったみなさまに至らないわたしたちふたりの愛の証人になっていただきたいと思います』

 奈津美と蓮が選択したのは、人前式。
 教会式も神式も検討したけどしっくりこなくて、最近は人前式というのも流行っているというのを知り、調べてみたらしっくりきたのでそうすることにした。
 蓮は奈津美にマイクを手渡した。

『今日、「結婚はゴールではない、スタート地点だ」と言われました。今日はみなさんに私たちのスタートを切る姿を見ていただき、この先、コースのない道を歩くこととなりますが、迷っていたり、間違っていたり、あまつさえ踏み外してしまいそうな時、ご指摘、お怒り、お叱りなどをいただけますでしょうか』

 奈津美の言葉に、暖かい拍手が送られた。

『ありがとうございます。私、みなさんにこうして祝福していただき、幸せです!』

 奈津美は蓮を見つめ、蓮はやさしく奈津美に微笑んだ。
「誓いのキスしろー!」
 どこからか野次が飛んできた。
 その声に、会場内はキスコールいっぱいになり、ふたりはかなり照れた。
 蓮は奈津美の肩にやさしく手を置き向かい合い、ベールをそっと上げた。会場内は再度、水を打ったように静まり返った。
 奈津美は瞳を閉じた。どきどきと自分の心臓の音が聞こえてくる。蓮の息が顔にかかり、そっと唇に口づけされた。短いような長いような誓いのキス。
 奈津美はそっと目を開けると、蓮の目と合った。
 少しいたずらそうなその瞳に、奈津美はますます恋をした。
 きっと、大丈夫。
 私たちはお墓の中まで一緒になるのだから。
 奈津美はそう、実感した。

【おわり】

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