《三》ひたすら南へ05

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※最後に軽い流血表現があります。
 苦手な方はご注意ください。


 食べ物を口にしたため少しは温かくなったような気がするが、街道を歩いているうちにすぐに寒さを感じてきた。

「くっそー。あいつに任せたのが間違いだったな」

 ぶつぶつと文句を言っているのは、モリオンだ。
 なにか羽織る物をと思って袋の中を漁ったが、必要最低限の物しか入れていないため、そんなものがあるわけもなく。

「モリオンさま。道行くスアヴァーリ引きに上着を持っていないか聞きましょう」

 あまりの寒さに耐えかねたマリの提案に、モリオンは喜んで乗った。
 荷台にたくさん荷物が乗っているのを引き止め、モリオンはなにか交渉している。しかし、上手くいってないようだ。がっかりと肩を落とし、首を振って戻ってきた。

「ダメだ……」
「わたしが行きましょうか?」
「いや、よしておけ」

 引き止めるモリオンの手をすり抜け、マリは通りかかったスアヴァーリに近づき、御者に声を掛ける。声は聞こえてこないが、表情と身振り手振りでやはり、上手くいってないようだ。やはり、しょんぼりとした表情でマリも戻ってきた。

「次はぼくが行ってくるよ」

 マリと入れ替わりに真珠はスアヴァーリに近づく。

「あの……すみません」

 険しい表情をした御者は真珠を見て、いぶかしげな顔をした。

「食べ物なら余分はないぞ」

 物乞いと勘違いした御者はそう言ったが、真珠は慌てて、手を振った。

「違います。寒いので、上に羽織る物をなにかお持ちでしたら、分けてもらおうかと思いまして」

 といいながら、真珠は荷台に視線を向け、そこで失敗したということにすぐに気がついた。先の二人は荷物がたくさんのスアヴァーリに声を掛けていたが、これは荷台が空だった。

「見ての通り、なにもないよ」

 それでもとのぞき込むと、屋敷から出てきた時に頭からかぶっていたのと似た布がたたまれて何枚か乗せられていた。

「あのっ」

 真珠は思い出す。荷台に乗り、あの布をかぶっていたとき、暑いくらいだったことを。とにかく今は、寒さをしのげるのならなんでもいい。あれを身体に巻き付ければ、寒さはかなり軽減されるだろう。
 真珠はそう気がつき、交渉することにした。

「あれを……? まあ……」

 御者は口でははっきり言わないが、明らかになにか見返りを求めている。真珠は困り、モリオンとマリに救いを求めて視線を向けた。
 心配そうな表情をした二人とすぐに視線が合い、駆けつけてくれた。

「どうした?」

 なにか問題が起きたのかと慌てているモリオンを見て、真珠は布を譲ってもらえないかと交渉していると説明した。

「なるほど。で、どうすれば?」
「話が早くて助かる」

 モリオンと御者は具体的な交渉を始めてくれた。
 それを見て、真珠は少しだけ、ほっとした。もしここで上手くいかなくても、次も同じように空の荷台を引いている御者に話しかければいい。それが分かっただけでも、収穫だろう。
 真珠の考えは、杞憂に終わった。
 話はすぐにまとまり、比較的新しめの布を譲り受けた。モリオンはその代わりになにかを渡していた。たぶん、こちらの世界の貨幣だろう。

「ありがとう、助かった」

 モリオンはお礼を言い、スアヴァーリを見送った。

「カッシー、なかなか機転が利くな!」

 道の端に寄った途端、モリオンに褒められた。子どもに向けたかのようなほめ方ではあったが、叱られてばかりいる真珠はうれしくて、照れた。
 モリオンは布を広げ、切り裂いていく。さすがにこのままでは大きすぎるのだ。
 不格好だが、どうにか形になった布を受け取り、身体に巻いた。予想通り、それ一枚でずいぶんと体感温度が違う。

「おお、これは温かい」

 油断するとずり落ちてきそうになる布をどうにか固定して、残りの布は袋に詰め込み、楽園パラディッサがあるというアラレヒベに続く道を歩き始めた。

 それからの道中は、比較的快適だった。重い荷物もなく、道も平坦だ。考える余裕が出来て、真珠は走り去ってしまったルベウスを思い出した。

「ねえ、マリ。ルベウスの言ってたこと……」

 マリも引っかかっていたようで、暗い表情になった。

「だって、村が終わりなんて、普通は言わないでしょ?」

 ルベウスの言葉が引っかかって、仕方がない。

「オレたちは楽園パラディッサに一刻も早く、行かないといけないだろう!」

 モリオンのいらだちも分かるのだが、引っかかりを覚えて仕方がない。

「やっぱりぼく、気になるよ!」

 真珠は立ち止まり、きびすを返して元来た道を戻り始めた。

「ちょっと、待てよ!」

 モリオンの制止の声を無視して、真珠は肩を怒らせながら歩いて行く。マリはそれを見て、真珠へ着いていくことにしたようだ。

「モリオンさま。わたしはカッシーに着いていきます」

 こうなると、二対一となって、モリオンが折れるしかない。

「あー! 分かったよ! 行けばいいんだろっ」

 その声に、真珠は振り返り、にっこりと微笑んだ。

「ありがとう、モリオン」

 その表情を見て、どうしてか頬が赤くなるのを自覚した、モリオンだった。

┿─────────────┿

 昼を食べた地点まで、ようやく戻ってこられた。
 しかし、ルベウスの言っていた村がどこにあるのか、まったく見当が付かない。

「どこをどう探せば……」

 つい、弱音が口から漏れる。

「ほらっ、時間の無駄だろ!」

 どうあっても行きたくないモリオンは、すぐに元の道へと戻ろうと主張する。

「モリオン……ぼくたちがルベウスのところに行くと、なにか不都合でもあるの?」

 真珠はモリオンをにらみつけた。といっても、まったく迫力がないため、怖くともなんともない。

「もしかしたら、ルベウスの罠かもしれないじゃないか! そもそもがあいつ一人で村に行くと言った時点で、怪しいではないか。どこかに追っ手が待機していて、そいつらに指示を出しに行って、待ち伏せしているのかも」

 モリオンはそう口にして、それ以外はあり得ないと言わんばかりに何度もうなずいた。

「そんなこと……ない、よ」

 自信満々に言われると、真珠は強く反論することが出来ない。
 モリオンが言うように本当ならば、真珠の選択はマリとモリオンの二人の身も危険にさらしてしまうのだ。
 足を止め、真珠は悩む。

「ほら、カッシー。悩むことはないだろう? オレたちはこのまま、なにも迷わずに楽園パラディッサへと向かえばいいんだ」

 その強い言葉に、真珠は思わずうなずいてしまいそうになる。
 ここでぐだぐだと悩んでいる間に、どれだけ楽園パラディッサに近づけたのかを考えたら、時間を無駄にしているという焦燥感に駆られる。
 真珠はマリに視線を向けた。今までずっと、適切に助言をしてくれたので、つい、頼ってしまう。これでは地球にいるときの真珠と珊瑚の関係のようだなんて、思ってしまう。そう考え、急に地球のことが恋しくなってしまった。
 今頃、真珠がいきなりいなくなったことで地球では大騒ぎなのかなと思うと、どうにかして無事を伝えられないかと思ってしまう。迷惑を掛けていることが心苦しくなる。

「ここまで来て確認しないで先に進むのは、わたしは反対です」

 マリの声に、真珠は顔を上げた。真珠の気持ちを汲むかのようなマリの発言に、ほっとする。

「ルベウスが言っていた村を探しましょう。無事なのを確認してから出発したとしても、この先、後悔するかもしれないことを考えれば、大した時間の無駄ではないかと思います」
「とは言うけどよぉ。その肝心な村はどこだっつー話で」

 モリオンの不服そうな声に、真珠は反射的に謝ってしまいそうになってしまう。
 妙なところで気弱だよなあ……と真珠は心の中でため息を吐いた。

「先ほど、わたしたちが歩いてきた道側には、村への入口らしき道は見当たりませんでした。なのできっと、反対側のどこかにあるのでしょう」
「とは言っても……もし、その村がひっそりと暮らしている隠れ村だったら?」
「そうだとしても、どんなに隠してあっても、人の出入りがあれば、分かるはずです」

 力強くいうマリの言葉に、味方にすれば心強いけど、敵に回すとやっかいな相手だなと真珠は思った。

「スアヴァーリの通りが途切れたら、反対側に渡りましょう」

 マリの言葉に従い、スアヴァーリの行き来が途切れて街道を突っ切ろうとしたところ、反対側の街路樹ががさがさっと揺れ、人が転がり出てきた。

「たっ……助け……助けてくれぇ……」

 衣服はぼろぼろで、あちこちに傷が見え、血も見える。
 三人は顔を見合わせ、慌てて駆け寄った。






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