【突然のプロポーズ】

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智鶴視点


 感じたことのないふわふわ感に違和感を覚えて、わたしは目を覚ました。部屋の中はすっかり明るくて。いつも隣で寝ているパパを確かめようと手をのばして、いつも感じるシーツの感触が全く違うことに気がつき、わたしは一気に目が覚めた。
「ど、どこ、ここ!?」
 私は飛び起き、周りを見た。目の前には、まったく見たことのない景色があった。
 え……っと。
 わたしが悩んでいると、かちゃっという音がして、だれかが部屋に入ってきた。
「智鶴、おはよう。よく眠れたようですね」
 聞き覚えのある声にわたしは視線を向けた。深町さんがにっこり微笑んで立っていた。
 昨日のスーツ姿とはまた違ったラフな格好だったけど、やっぱりものすごくかっこよかった。
「智鶴にあいそうな服を探していたんだけど、なかなかなくて」
 深町さんは困ったような表情でわたしを見ている。
「サイズを測ってもらうから、ちょっと待ってて」
 深町さんはベッドのまくら元に置いてある電話に手を伸ばしてどこかに電話をかけていた。
「食事はここに運ばせるから。もう少し待っていてね」
 深町さんはわたしの頭をやさしくなでて、部屋を出て行った。
 深町さんと入れ替わりに女性が入ってきて、わたしにベッドから降りるように言ってきた。わたしは素直に降りた。昨日、深町さんに借りたシャツ一枚しか着ていないことに気がつき、恥ずかしくなる。女性はそんなわたしにお構いなく、あちこちのサイズを測るとお辞儀をして、部屋を出て行った。
 昨日は暗かったし、あんなことがあった後でそこまで気にする余裕がなかったけど。
 わたし、こんな格好で深町さんに抱きついたり、抱っこされてあまつさえそのまま寝ちゃうとか。
 ありえないでしょう!?
 あまりの恥ずかしさに、頬がかーっと赤くなるのを感じた。
 と思っていたら、
「秋孝、ちょっと待て!」
 扉の向こうでものすごく焦った深町さんの声が聞こえてきた。
「なんで待たないといけないんだ。おまえの妹だろう?」
 聞いたことのない、それでいてとても耳に気持ちがいい低音の声とともに、扉はノックされることなく、開かれた。
 わたしは今、サイズを測ってもらうためにベッドから降りて終わったにもかかわらずそのままの状態でぼーっと立っていた。
 扉の向こうに立っている男の人を見て……わたしは固まった。
 深町さんもものすごくきれいでかっこいいと思ったけど。扉の向こうに立っている男の人は……。もう、なんと形容していいのかわからないほど、美しい、という言葉以外、語彙の少ないわたしには表現できなくて。日本人だと思うけど、彫刻のように彫の深い顔で。精悍な顔つき、っていうのかな、こういうのを。
 深町さんとはベクトルが違うけど、美しいってことには変わりなくて。わたしは間抜けな顔でぼーっと見つめることしかできなかった。
 男の人もわたしにびっくりしたような表情をしていたけど。
「秋孝! 待てって。いくらおまえでも、年頃の女の子なんだから。って、秋孝?」
 深町さんは訝しげに扉の前で仁王立ちしている男の人……あきたか、って呼ばれていたけど……を少し見上げていた。
 深町さんもかなり身長が高いけど、その深町さんが少し見上げないといけないってことはあきたかさんはもっと背が高いってことで。わたしが横に立って顔を見ようと思ったら思いっきり見上げないといけないな、とかどうでもいいことを思っていた。
 あきたかさんは呪縛から解かれたようにゆっくりとわたしの方へ歩いてきた。
 そして目の前に立ったと同時に、
「俺と結婚しろ。おまえには拒否権はない」
 わたしは予想通り、あきたかさんの顔を見上げた。そこには……真剣な表情があった。
 でも、わたしの口からは
「はぁ? あんた、脳みそわいてるんじゃないのっ!?」






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