『彼方の告白』

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深町視点


 智鶴と秋孝と彼方の四人で夕飯を食べ、彼方を連れてお屋敷を後にするのがここのところの日常だった。
 タツミホールディングスのごたごたがどうにか落ち着いたころ、彼方は真剣な表情で僕のことを見つめていた。
「どうしたの?」
 ふと心配になって、お屋敷を出てすぐの道路の端に車を止めて彼方の顔を覗き込む。
「深町さん」
 今まで見たことのない真剣な表情に、なにかあると構えた。
「アタシ、深町さんのこと、好きです」
 彼方の告白に、やはり、と思う。いつか言われると思っていたけど、こんな早い時期だと思っていなかった。断るつもりはなかったけど、彼方を受け入れるには自分の中の気持ちの整理をしてからでないと彼方に悪いと思い、口を開きかけた。
「アタシ、知ってます。深町さんが……智鶴ちゃんのことを、その」
 彼方の観察眼に苦笑する。秋孝でさえ、たぶん気が付いていない僕の智鶴への気持ち。いや、秋孝に嘘やごまかしは効かないから……知っていても言わないだけかもしれないけど。
 彼方にさえ気がつかれている弱い心に、苦笑する。
「うん。彼方だから正直に言うね。確かに僕は……智鶴が腹違いの妹と知りながら、愛してる」
 僕の言葉に彼方はやはり、ショックを受けているようだ。
「でも、こんな異常な気持ち、間違ってると思うし自分でも気持ちが悪い。たぶんこの気持ちは、ずっと離れて暮らしていたから……家族への愛情と恋人への愛情を取り違えているんだって、思ってる」
 自分で自分を分析した結果、そういう結論が出た。だから、智鶴へのこの愛情は、時間が解決してくれると思っている。いつか家族へ対する愛情へ変わるって。
「もう一度言うよ、これは彼方だから、言うんだ」
 その言葉に、彼方はようやくわかってくれたのか、少し頬を赤く染める。
「どうでもいい相手になんて、こんな恥ずかしい話、しない。だけど、彼方だから。……知っていてほしいって思うのは……僕のエゴかな?」
「深町さん?」
「彼方から告白させて、ごめんね。勇気がいったよね。僕には……そんな勇気がなくて。彼方のこと、大好きで……嫌われたらどうしようって思って、ずっと言えなかった」
 彼方は目を見開いて僕を見る。
「だけど……。もう少し待ってくれる? 僕の中の智鶴の想いを……完全に消してしまうまで。彼方でいっぱいになるまで……その、待ってくれるかな」
 彼方のきれいな瞳に涙があふれてきた。彼方を泣かせたくてそんなことを言ったわけではないのに、激しく戸惑う。
「あの、彼方……」
 どうしていいのかおろおろしてしまう。こんな時、抱きしめていいんだろうか。躊躇して、助手席の彼方を見つめる。智鶴相手なら、戸惑うことなく抱きしめられるのに。彼方は……大切過ぎて、触れることができない。触れることで壊してしまいそうで。触れることで、汚してしまいそうで。
 彼方は手で顔を覆って、泣いている。
 ずっとずっと、彼方のことが……好きだった。こうして想いを告げられて……すぐに受け入れられない自分が、とても歯がゆい。
 そっと彼方に触れる。彼方はびくり、と身体を震わせた。驚いて、手を引っ込めた。
「深町さん?」
 彼方はそのまっすぐな瞳を指の間から僕をうかがうようにしてみている。僕とは違って穢れをまったく知らないその純真無垢な瞳に……恥ずかしくなる。
「僕は……けがれているんだ。けがれた手で……彼方を触ることが……できない」
 智鶴は……けがれているというんだろうか。戸惑うことなく抱き寄せられた智鶴を想った。智鶴に同じ匂いを感じた。
 だけど智鶴の瞳は……僕を通して父を見ていた。その智鶴も、今ではすっかり秋孝しか見ていない。智鶴が秋孝とうまくいけば、僕は智鶴のことが忘れられる、そう信じている。
「深町さんが汚れてるなんて、そんなことない!」
 彼方の叫ぶような声に、微笑む。顔を覆っていた両手は僕の手首を握っていた。
「彼方……。僕の中をきみいっぱいにしてくれる?」
 握られていた両手首を自分の身体に引き寄せ、彼方をグイッと引っ張り抱き寄せる。
「僕は相当嫉妬深いらしいけど、覚悟はできてる?」
 彼方は目をギュッと閉じて、うなずく。
「彼方、目を開けて。僕を見ていて」
 そおっと開かれた瞳を確認して、僕は彼方の唇にキスをした。






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