《第二話・楽しいいちご狩り編》六*ペアリング×二?

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 ソファのある場所に通され、しかもお茶まで丁寧に出されてしまい、琳子は慌てた。

「どういったデザインがお好みですか?」
「シンプルなのがいいなぁ」
「プラチナだな」

 樹と悠太の希望を聞いた店員は、

「少々お待ちください」

 と言葉を残し、三人の前からいなくなった。

「樹、悠太っ」

 店員が商品を探しに行っている間に小声で呼びかけた。

「どういうことですかっ」
「俺たちの本気を知って欲しいから」

 こういうときの二人の息の合い方は異常だと、琳子は頭を抱えた。どうやってここから逃れようかと考えているうちに店員が戻ってきてしまった。

「お待たせしました」

 店員は紺色のベルベットの布の敷かれたトレイに何点か乗せていた。琳子に見えやすいように目の前に置くと、説明を始めてしまった。

「オススメは当店オリジナル商品のこちらのペアリングはいかがでしょうか」

 と悠太が希望したシンプルなデザインの色の違うリングを数点、並べられた。

「こちらはプラチナでございます。淡いピンク色なのはピンクゴールドでございます」

 きらきらと輝くリングを見て、琳子は思わず見とれてしまう。
 琳子も女性であるから、ジュエリー類に興味がないわけではないのだが、仕事中は邪魔になるからとつけていない。
 持っているものはどれもおもちゃのような安物ばかりなので、本物の輝きというのはやはり違う。目を輝かせて見入ってしまう。
 しかし。
 頭を振り、口元に力を入れて樹と悠太に視線を向けた。やっぱり要らないと言おうとして、悠太に遮られた。

「わぁ、こっちのもかわいい」
「はい、そちらもオススメでして」

 悠太と店員は盛り上がっている。樹は静かにリングを手に取り、吟味していた。琳子だけが戸惑い、どうすればいいのか分からない。

「悠太はそれが気に入ったのか?」
「うん。琳子さんもこういうデザイン、好きだよね?」

 と聞かれ、視線を向けると好みぴったりなデザインのリングを選んでいたのだ。

「なにも言わないということは、気に入ってくれたんだよねっ」

 少しひねりの入った細身のリングで、表は飾り気はなく、しかし、リングの内側に宝石が埋め込まれているという。

「ここはお互いの誕生石を埋めて、お互いを身近に感じていただくという趣向でございます」
「うん、それいいね。じゃ、ボクのはこっち。樹は?」
「この指輪と重ねづけしてもおかしくないデザインの物は?」
「それでしたらこれらがいいかと」

 その中には琳子がかわいいと思ったピンクゴールドのものが含まれていた。編み込まれたような作りのリングに樹はすぐに気がつき、それを選択していた。

「それでは、指輪のサイズを測らせていただきますね」

 三人のサイズをそれぞれ測り、さらには誕生日も聞かされて埋め込む宝石を決められてしまった。

「商品のお受け取り方法はいかがいたしましょうか」
「宅配で送ってほしいな」
「かしこまりました」

 琳子そっちのけで話は進み、お支払いまで済ませて店員全員に見送られて店を出た。

「あの……」
「これでいつでもボクたちは一緒だよ」

 不安に思っている琳子の気持ちを汲んで、二人は見える形で提示してくれた。それがうれしくもあり、苦しく感じるところもあった。

「完成が楽しみだな」

 樹の笑みに琳子はどういう表情をすればいいのか分からず、戸惑った。

「で、次はどこだ?」

 樹はこの話題は終わりと強制的に切り替え、琳子に次を促す。琳子は樹に促されるがままにパンフレットを取り出し、お店を示した。

「……下着?」
「……はい」

 少し恥ずかしいと思いつつも、琳子は小さくうなずいた。

「二階だな」

 なにかからかわれるかと思ったが、珍しくツッコミをされなかった。違和感を覚えながらも、ほっとした。
 からかわれるのを覚悟で琳子が下着を見たいと言ったのは、少しだけ一人になりたかったからだ。さすがの二人も下着のお店ならば中まで入って来ないだろうと思ったのだが、これがあだになってしまうとは思いもしなかった。

 二人を外に残し、琳子は店内に足を踏み入れた。
 あまり期待していなかったのだが、思っているより品ぞろえが良くて、琳子はわくわくした。
 色々と物色して、何点か選んだ。アウトレットというだけあり、定価よりかなり安く購入することができた。

 リングに関しては、間接的に琳子が二人にお願いしたような物だから諦めよう。それに、二人が選んだデザインは琳子の好みで、うれしかったのもある。そう気持ちを切り替えてお店から出た。

「お待たせしました」

 二人はお店の近くのベンチに座り、くつろいでいた。琳子が店の中で商品を選んでいる間にとある企みを企てていたなんてことをみじんも感じさせずに。

「お疲れ。琳子は疲れてないか?」
「私は大丈夫ですよ」

 気遣ってくれる気持ちに琳子は笑みを浮かべた。
 悠太は腕を引っ張り、樹との間に琳子を座らせた。

「ところで琳子」

 樹は上機嫌で琳子の名前を呼んだ。

「はい?」

 樹に視線を向けると、笑みというよりかはにやけている顔と言った方がいいほど破顔して琳子を見ていた。

「明日はなにか予定が入っていたりするか?」

 その質問に嫌な予感を抱きながら、琳子は正直に答えた。

「いえ、特には」
「よっし。了解」

 にやりと笑みを浮かべ、樹は立ち上がった。

「あとは寄る店は?」
「あの……あと一店ほど」
「いいぜ。付き合うぞ」

 悠太も立ち上がり、琳子の手を取って立ち上がらせてくれた。

「靴が見たいんです」

 とパンフレットの目当ての店を指し示す。B棟の一階にある店だ。

「じゃあ、そこに行って、C棟に寄って車に戻ろう」

 三人は階下に向かい、靴を選んで購入した。
 そしてC棟に向かい、駐車場に戻って車に乗り込む。

「今日はありがとうございました」

 乗り込んだと同時に琳子は二人にお礼を告げた。

「いや、こちらこそ。楽しかった」
「うん、ボクもすっごく楽しかった」

 樹はエンジンを掛け、駐車場を出た。
 外に出ると、思っていたよりも時間が経っていたようで、あたりは薄暗くなってきていた。家に帰り着いたら結構な時間になるなと思っていたら。
 来た道ではなく、どうやら違う方面へと車を走らせている。なんとなく嫌な予感がして、琳子は呼びかけた。

「樹……?」

 不安そうな表情にしかし、樹も悠太も笑みを浮かべているだけだ。
 車内に嫌な沈黙が落ちる。

「ところで琳子。温泉は好きか?」

 脈略のない質問に琳子は答えかねていた。

「この先にいい旅館があってだな」

 その言葉にまさかという思いが駆け巡る。
 いや、それはさすがにと思うのだが、しかし、樹のことだ、やりかねない。

「樹、もしかして」
「あれ? 期待してくれた?」

 バックミラー越しの樹の表情はいたずらっ子のような笑みを浮かべていて、琳子は不覚にも胸の高鳴りを覚えてしまった。それを振り払うように身を乗り出し、樹と悠太を見た。

「このまま、帰るんですよね?」

 あえて確認の言葉をかけると、二人は同時に下心がたっぷりな笑みを浮かべた。琳子は顔が引きつるのが分かった。

「ボクたちが素直に帰すように見える?」

 その一言に、琳子の全身から血の気が引いた。

「琳子さん、心配しないでね。さすがに初めてで三人はなしだと思うから、大丈夫だよ」

 琳子は慌てて身を引き、身を守るように後部座席に丸くなった。

「それとも、積極的にそれでもいいって言うのならボクは別にかまわないけど?」
「俺も悠太がいてもいなくても、琳子がいいって言うのなら大歓迎だけど」
「じょっ、冗談じゃありませんっ! このケダモノめっ!」

 琳子の叫びに樹と悠太は顔を見合わせ、ひとしきり笑い合ったのだった。



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